1代で世界のソフトバンクを作り上げた孫正義さんは交渉の達人として知られています。
45分で4.6兆円のビジョン・ファンドへの出資交渉に成功しました。(分給1000億)
なぜ、百戦錬磨の大物でさえ、孫さん相手だと「YES」と返事をしてしまうのでしょうか。
日本一のネゴシエーターの秘密。
6分ほどの内容です、ぜひ最後までお付き合いください。
孫正義が決めた数々の無理な商談
①大学生の孫の発明「音声装置付き電子翻訳機」の開発を世界的権威であるバークレー校フォレスト・モーザ博士に依頼
⇒説得に成功。他の大学教授や学生なども加わり1大プロジェクトチームを作り上げてしまう。
②日本では無名だった孫の「音声装置付き電子翻訳機」をシャープに売込み
⇒1億円で買ってもらうことに成功!
③創業したばかりで実績0のソフトバンクが業界最大手の上新電機に独占契約交渉
⇒孫正義に将来性から交渉成立
④スティーブジョブズへのiPhoneの日本独占販売権交渉
⇒当時、iPhone販売はその国のNO1キャリア(日本だとNTTドコモ)に依頼していて例外はなかった。それがソフトバンクに決定
⑤資金繰りが終わっていたアリババへの投資交渉
⇒1億か2億円でいいと言う、CEOのジャック・マーを押し切り20億円の融資を決定、後に4000倍以上に!
⑤2016年、英国の半導体設計大手アーム・ホールディングスとの日本最大3.3兆円の買収交渉
⇒業種が違うと驚くアーム側を説得し、たった2週間でまとめあげる
⑥2016年、次期大統領に決定したばかりのトランプとの会談実現交渉
⇒実現、大統領決定後初めて会った日本人に。
⑦サウジアラビアの副皇太子ムハンマドとの会談
⇒45分でビジョン・ファンドへの4.6兆円の出資を決定
なぜ孫正義と交渉すると相手はYESと言ってしまうのか?
特に創業初期、格上の相手からしたら、何もない孫青年と交渉してもメリットはあまりなかったと思います。
なぜ孫青年との取引を決めたのか?
書籍などで伝えられる交渉した相手のコメントには共通項があります。
それは「孫さんの人柄にほれてしまった」という事。
シャープ副社長 佐々木正:
なぜそこまでしたかですか?自分でもよくわかりません。孫くんにそれだけの魅力があったとしか言いようがない。彼に賭けてみよう。孫君には、人をそんな気持ちにさせてしまうところがあるんです。
ラオックスの元社長 内田喜吉:
なぜか孫さんの事が気になって仕方なかった。孫さんだけは他の取引相手と違って全然スケール感が違うような気がしたんです。いつの間にか孫さんの人柄にほれてしまったんですね。
ハドソン専務 工藤浩:
口の上手い人には気を付けなければと思っていても、ついつい孫の大風呂敷に引き込まれてしまう。
では、この孫正義の魅力・人間力はどこから来るのでしょうか?
1.ビジョン
一つ目は常に人々を魅了させるビジョンです。
孫正義は、若い時からアメリカ留学するなど、常にITの最新情報にふれ、流れが速いITの分野でも、的確に目指すべき方向を見定めてきました。
自分の使命を「情報革命で人々を幸せにすること」と定め、ブロードバンド、モバイル、AIと邁進。
常に大きな視点で夢を語ってきました。
- アメリカから帰国した理由
たかが何百億で約束を破ったら、僕はその程度の人間ということになる - ブロードバンド参入
つぶれてもいい、その結果日本のインターネットが立ち上がるなら - 携帯参入
いつかNTTを超える - 原発を反対すると危険だとの指摘に
僕は死ぬまで原発に反対していきます。それで刺されるなら本望です。 - スプリント買収
アメリカの電話代を安くする。世界3位だが、いずれ1位になる。 - アーム買収
これから20年以内にアームは1兆個のチップを地球上にバラまくことになるだろう
大きな志に、最新のIT知識を組み合わせて導き出されるビジョン。
これが人に「この男の事をもっと知りたい、協力したい」と思わせる孫正義の魅力の一つとなっています。
僕は小さい時から商売人になろうと思ったことは一瞬もない。商売ってようするにできるだけ安く買って高く売る事ですよね。でも事業家は違います。鉄道や道路、電力会社など天下国家の礎を作るのが事業家です。
2.愛嬌
2つ目がその愛嬌です。
若いころから「じじ殺し」と呼ばれているそのキャラクター。
少し親しくなると自分の「在日韓国人であること」や「祖父母が密造酒や豚を飼って生計をたてていたこと」などマイノリティーであることを包み隠さず話すそうです。
童顔で若いころからの髪の毛が後退した愛嬌のあるビジュアルも手伝い、相手の懐に入り込んでしまいます。
ユーモアもたっぷりで、得意なのは自分の毛髪ネタです。
3.圧倒的自信
3つ目が圧倒的自身です。
「孫正義 300年王国への野望」にはハドソン専務の工藤浩さんとのこんな会話が残されています。
孫正義 「工藤さん、僕は天才なんですよ」
工藤浩 「は?」
孫正義 「僕は天才教育を受けてきたんですよ。父親は僕がご飯を食べる時に箸を持つだけで『正義、お前は天才だな!』と褒め殺しだったんです。」
孫正義さんは父親から「天才」と褒められて育てられて、父親に怒られたことがないそうです。
そのおかげで、自分が一生かてけ懸命にやれば必ず抜けるという根拠のない自信があり、それが交渉相手にも伝染し「この男ならできるかもしれない」と思わせるのです。
つい乗ってみたくなるような「ビジョン」
応援したくなってしまう「愛嬌」
そして、信じてみようと思わせる「圧倒的自信」
これらの人間力が孫正義の最大と武器となっています。
名作「あんぽん 孫正義伝」で著者の佐野眞一さんは、他の孫正義本と違いを持たせるため、「孫正義寄り」にならないように平等に、時には批判的に書こうと努力しています。
しかし、孫正義さんに好感を抱いている事が随所に漏れ出てしまっています。
孫正義の交渉術「鯉取りまーしゃん」流とは
もちろん、人柄だけで交渉が上手くいくわけではありません。
次に孫流の交渉術をエピソードとともにご紹介します。
交渉相手に3つのメリットを提示
「ほぼ日刊イトイ新聞」では、弟・泰蔵さんに伝授した交渉術が語られてます。
それは、「相手に3つのメリットを提示する」
「1個じゃ話にならん」
「でも2個じゃ相手と1対1くらいにしかならん」
「そのとき3個くらいあったら、人はみんな喜ぶよ」
これは、お父さんの三憲さんの代から使っている孫家の交渉術の極意だそうです。
鯉取りまーしゃん
孫正義さんが交渉術を語るときに話す挿話があります。
それが福岡県・筑後川に実在した伝説の漁師「鯉取りまあしゃん」の話。
その漁師の漁は独特で、網や釣り竿は使いません。
たっぷり食事をとった健康な体に裸の体に油を塗り、河原で焚き火で体を温めてから寒い川の中に潜る。
川底で横たわっていると、温かい体に鯉が向こうから寄ってきます。
それを優しく抱き止める。
つまり、交渉相手に利をしめして、向こうから交渉したいと思わせるのがコツなのです。
先ほどの3つのメリットにつながりますね。
この相手のメリットを提示するは、名著「伝え方が9割」でも言及されていますね。
◆デートの誘い方
NG:デートに行こう
OK:びっくりするほど美味しいパスタの店があるんだけど行かない?
孫正義の相手に利を示した交渉の例
日本最大3.3兆円のアーム買収交渉
- アームとソフトバンクは取引がないから、アームの顧客に対して中立性が保てる
- アームの株価に43%を上乗せ
- エンジニアの数を5年以内に2倍に増やす
サウジの副皇太子ムハンマドとのビジョン・ファンドへの4.6兆円の出資交渉
- 出資してくれれば、100兆円をプレゼントできる
- 私の投資実績は17年間で44%の圧倒的数字だ
- アームの買収により、20年で1兆個の半導体をバラマキ、膨大なデータ分析が可能
スティーブ・ジョブズへの日本でのiPhone独占販売交渉
- ソフトバンクがアジアナンバーワンのインターネット企業
- ソフトバンクショップの内装は、アップルショップ同様の白を基調にしている
- ソフトバンクのロゴのカラーリングはiPoheやiPodのカラーリングに近い。
ドナルド・トランプ大統領との会談
今後4年間でアメリカに500億ドルを投資し、5万人の雇用を手土産に日本人として初めてトランプ大統領に会うことに成功。
その見返りとして、アメリカの携帯大手スプリント社と、競合のTモバイルの合併の後押しを依頼しました。
一発交渉
さらに孫正義にはこれだと思うときに使う必殺の交渉術があります。
それが「一発交渉」
オーナー社長だからできる即断即決です。
無駄な駆け引きはせずに、自分たちが出せる最高の金額を一発提示し、相手に判断してもらうのです。
コムデックス買収交渉:
相手に「ディスカウントするつもりはない。売りたい金額を一度だけ言ってください」と依頼し、相手の言い値「800億」で一発契約
イーアクセス買収交渉:
リストラはしない&株価の3.5倍の金額で一発勝負、KDDIはソフトバンクより高額を提示していたがスピード感が評価され交渉成立。
孫正義交渉の弱点
ここまで孫さんの魅力と交渉術をお伝えしてきましたが、弱点もあります。
ボーダフォン買収時、部下・宮川氏の証言
ボーダフォン日本法人と役員同士が並んで交渉するのですが、ある程度まとまると孫さんとボーダフォン社長のビル・モローが別室に出ていって2人だけで協議する。
2人が部屋に帰ってくると買収価格が1000億円も上がっている。
そういう事が何度かありました。
孫さんは欲しい時は顔に出るタイプですからね。こりゃヤバいなあという感触でした。
ファーストリテイリング柳井の証言
だいたい孫さんは気が多すぎてワキが甘いんですよ。
あれを買いたい、これを買いたいとね。
だから社外取締役としての役割は孫さんの耳に痛いことを言うことだと思ったんだ、わきを締めてもらおうということだね。
なんとも人間臭い弱点です。
ただ、この弱点も相手を「この人は嘘が就けない、信用できる」と思わせる魅力なのかもしれません。
孫正義の交渉力
以上が「孫正義の交渉力」のまとめです。
一言で言うと「高い志を持ち、相手の利益を考える」でしょうか。
少しでも参考にして頂ける部分がありましたら幸いです。
まだまだ現役を続行され予定の孫正義さん、この日本が誇る世界有数のネゴシエーターが今後どんな大きな交渉をまとめ上げていくのか、楽しみですね。
最後に孫さんの名言で締めたいと思います。
説得するのが一番難しい相手は、嘘のつけない自分自身である。