2020年9月、ソフトバンクが「中核中の中核」と位置付けていた「アーム」を売却する方針が発表されました。
本記事は、買収の経緯を振り返り、衝撃の売却の理由を考察します。
2016年、アーム買収の衝撃
2016年、ソフトバンクは英国の半導体設計大手アームを当時日本のM&Aとして最大規模の3兆3000億円で買収しました。
それまでの、ボーダフォンやスプリントの買収とは異なり、通信事業でない「半導体設計大手アーム」を買収したことに世間は驚きます。
それに対して孫正義は次のように言い放ちました。
地図とコンパスを手に入れた
アームは、スマホやIoT端末などのあらゆる電子機器に搭載される半導体を設計する会社。
20年以内にアームは1兆個のチップを地球上にバラまき、それがソフトバンクの戦略に活かせるというのです。
- ばら撒いたチップから、地球上のあらゆるデータを瞬時に吸い寄せ、戦略に生かせる
- アームは、5年先の製品などの設計を行っているので、世の動向の見通しが圧倒的にしやすくなる。
当時の記事では、”ソフトバンクグループの「中核中の中核」になる”とまで断言。
さらに次のような発言も飛び出し、アーム売却の効果に自信を伺わせていました。
「たとえば囲碁で勝つ人というのは、碁の石をすぐ隣に打つ人ではなくて、遠く離れた所に石を打って、それが50手、100手目に非常に大きな力を発揮する。あそこにあのとき置いておけば良かったというのが、5、10年後にわかる。私は常に7手先まで読んで石を打っている。わかる人にはわかるし、わからない人にはわからない。ほとんどの人にはわからないと思う」
「ちなみに(社外取締役の)柳井(正)さんは、ほとんどの投資に反対するが、ボーダフォン日本法人のときは賛成してくれたし、今回も賛成してくれた。(取締役の)ジャック・マーも非常に強く賛成してくれた」
そもそも、そんな有望企業をなぜ買収できたのか?
実は孫さんは10年くらい前からアームを狙っていて、相手を熟知した上で次のような文句で買収を持ちかけました。
- アームとソフトバンクは取引がないから、アームの顧客に対して中立性が保てる
- アームの株価に43%を上乗せする
- エンジニアの数を5年以内に2倍に増やす
この口説き文句は相手に刺さります。
大型買収としては異例、孫正義がアームのスチュアート・チェンバース会長にトルコの港町で初めて会ってから、たった2週間で交渉が成立してしまいます。
ちなみに、最初の会談申し込み時、スチュアート・チェンバース会長は休暇中で家族と地中海クルーズを楽しんでいて「会長は休暇中だから今は会えない」と断られました。
しかし思い立ったら止まれない孫さんが「いや、今すぐ会いたい。どこか近くに港町があるだろう」と強引に港町に寄ってもらったそうです。
なぜ孫正義はアームを売却するのか
ところが2020年9月、ソフトバンクグループは、アームを米エヌビディア(NVIDIA)に4兆2000億円で売却すると発表されます。
衝撃の買収からたった4年。
ただ、アームと完全に縁が切れるわけではないようです。
この取引でソフトバンクグループはエヌビディア株を6.7%から8.1%取得し、最大保有時には筆頭株主になり、親会社の株主として、間接的にアームを支配することになります。
アームは売ったような買ったような不思議な関係
それでも買収時の「中核中の中核」発言の内容から考えると明らかに違和感が...
その夢に納得し期待していた人にとっては裏切られた気持ちさえあります。
また、エヌビディアはアームの顧客先のひとつであり、アームへの口説き文句「アームとソフトバンクは取引がないから、アームの顧客に対して中立性が保てる」に反することになるのです。
予想できる理由としては、
- ①財務状況を改善が必要になり仕方なく
コロナによる暴落という市場環境の悪化とweworkの投資失敗により、現金が必要になった。 - ②アームよりエヌビディアの方が魅力的
- ③アームの将来への期待が下がった(見限った)
わたしは、理由は①だが、なんとか支配を残すために筆頭株主となれる可能性があるエヌビディアを売却先に選んだと予想しています。
しかし、孫さんの動向を追いかけていると面白いですね。
今回は少し残念な展開ですが、まだまだ現役続行を表明している孫さんがもう一つ二つくらい「あっと驚く」大きなニュースを届けてくれんじゃないかと期待しています。
「トヨタとの合併」
「NTTを買収」
なんてどうですかね。
まだ小さいか。
孫正義のニュースをより楽しむため、ソフトバンクグループ全体の現状について知りたい方、次の記事でまとめていますのでチェックしてみてください。