今日世界を席巻しているGAFA(※)をはじめとするIT企業、これらの企業は1990年代後半のITバブルのころから頭角を現してきます。
では、なぜこれらの有力な企業の株価の高騰がITバブルとその崩壊に繋がってしまったのでしょうか。
(※) グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェースブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の4社
ITバブル崩壊が孫正義やホリエモンの運命に与えた影響
ライブドアやソフトバンクは、ITバブル崩壊の洗礼を受け、その後の方向性に大きな影響を受けています。
ホリエモン
2000年4月6日ホリエモンのオン・ザ・エッヂ(ライブドアに変わる前の社名)はITバブル崩壊寸前に滑り込みで上場を果たします。
しかし、それが地獄の始まりでした。
初日は下げ気配で値が付かず、結局26%下落でスタート、そこから2003年までの3年間、公開価格を上回ることはありませんでした。
さらに上場後初の決算は、なんと赤字!
「上場で私腹を肥やすことが目的だったのか?」
株主や銀行からは白い目で見られ、針のむしろ状態。
事態を何とか打開しようと、上場で得た潤沢な資金使って、M&Aで成長を狙う戦略に舵を切ります
そして、球団買収、日本放送買収、衆議院選挙、ライブドア事件と突き進んでいくことになります。
孫正義
日本ITベンチャーのリーダー格だった孫正義さんはもっとすごかった。
最盛期は1日に1兆円資産が増え、3日間だけ、あのビルゲイツを抜いたのです。
ところが、バブルがはじけると一気に暗転、ソフトバンクの株価は100分の1になり、世間からは詐欺師扱いを受けます。
この逆境が孫正義に火をつけます。
むしろ1兆円お金が増えていた時は、空しくなり目標を見失っていたそうです。
「ソフトバンクの桶狭間の戦い」と呼ぶ、圧倒的不利な戦い、半国営企業のNTTに挑むブロードバンド参入を決意します。
サーバーエージェント藤田晋社長
サーバーエージェントの藤田社長も例外ではありませんでした。
ホリエモンと同様に上場後すぐにITバブルが崩壊。
成長への投資をしていた時期だったため、すぐには成果が出ず、株主からプレッシャーを受け続けることになります。
その筆頭があの村上世彰さんで巧妙な罠を仕掛けられ、窮地に陥ります。
このように、IT起業家に天国と地獄を見させた「ITバブル」とその崩壊はなぜ起こったのでしょうか。
ITのバブルはなぜ起こったのか
ITバブルの時代背景
コンピューターやソフトウェアの普及は1980年代から始まり、アメリカでは、IT産業は衰退気味の自動車産業に代わる新しい産業として大成功しました。
そして、当時アメリカではニューエコノミーという考え方が支持を集めていました。
アメリカはニューエコノミーにより、景気循環(※景気が良い時と悪い時を繰り返す事)がなくなり、インフレなき成長が永遠に続くと信じられていました。
実際、失業率も1990年代初めの7%から2000年には4%代に低下しています。
IT企業への投資ブーム
IT投資ブームの火付け役となったのは1995年発売のWindows95の発売です。
このころから「ITは夢の技術だ」ということになり、IT関連企業の株価が急騰しました。
ちなみにこの年はIT業界で節目の年で、後のIT長者が大きな行動を起こしています。
- ジェフ・ベゾスがAmazonサービス開始
- イーロンマスクがインターネットの可能性に気付き、大学を2日で中退し、弟とオンラインコンテンツ出版ソフトの会社を作る
- アップルを追い出されたスティーブジョブズが『トイ・ストーリー』を発表
- 孫正義がYahooに出資
これまでの製造業では優れた技術を持っているベンチャー企業でも世界を席巻するまで何十年もかかりますが、IT企業なら一瞬でできます。
また、それが世界標準となれば将来にわたり、長い利益が約束されるのです。
FRBのグリーンスパン議長は当初この熱狂に懐疑的な立場を取っていました。
「根拠なき熱狂」だ
しかし、長期間好調が続く株価にその考え方が変わってきました。
当時、マイクロソフトの時価総額は6000億ドル(60兆円)を上回り、創業者のビル・ゲイツ氏は世界的な大富豪にのし上がりました。
通信関連銘柄が多いNASDAQのナスダック総合指数は、1996年には1,000前後で推移していましたが、1998年9月に1,500を、1999年1月には,2000を突破し、2000年3月10日には絶頂の5,048を示しました。
IT技術への熱狂
アメリカ合衆国の若い技術者や冒険起業家たちは、IT関連のプレゼンテーションをすれば資金が集められるようになりました。
ただ、多くの起業主旨書は商業的可能性が疑わしく、あるいは技術的可能性について疑わしいものが含まれていた。
それでもビジネスマンのだれもが第2のビル・ゲイツを夢見てITビジネスに飛びつき、時代のトレンドを読んだ投資家は高騰し始めたIT企業関連株を買ったのです。
そのPERは平均で68倍(株価が68年分の利益と同じ)と非常に高い数値を示していました。
同様の傾向はアメリカの株式市場だけでなく、ヨーロッパやアジアや日本の株式市場でも見られました。
株式を公開したベンチャー企業創業者は莫大な富を手にし、シリコンバレーを中心に、ベンチャー設立ブームに拍車をかけます。
しかし、ついにその熱狂にも終わりが来ます。
連邦準備制度理事会の米ドル利上げを契機に、株価は急速に崩壊したのです。
バブル崩壊の原因
ITバブルの崩壊の原因としては次の2点が挙げられています。
- 連邦準備制度理事会の米ドル利上げ
- 期待により膨れ上がった株価に対して決算が伴わないなどの事例が重なり、「人々が夢から覚めた」
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件もあって、2002年にはナスダック総合指数は絶頂の5,048から1,000台まで下落してしまいます。
シリコンバレーを中心とした多くのIT関連ベンチャーは一時的にではあれ縮小や倒産を余儀なくされ、Google、Amazonなど、一部のベンチャー企業のみが生き残りました。
一方、マイクロソフトやインテル、デルやヒューレット・パッカードなど既存のIT関連事業者については、株価の大幅下落は避けられませんでしたが、本業に与えられた影響は軽微なものですんでいます。
沢山のIT企業が倒産し、その会社に投資していた投資家も資産を失いました。
バブル崩壊の影響は、ネット企業⇒通信企業⇒IT機器企業へと広がっていき、景気に深刻な影響がでます。
2002年の米国IT関連失業者数は56万人に達しています。
ニューエコノミーなんて嘘っぱちじゃないか!
景気が下向きになると、「ニューエコノミーはアメリカ経済の成長性や持続性に対する過剰な期待から出たものだ」と感じ始める人が現われ、ますますITバブルというものに疑念を持つ人が増えます。
アメリカがインフレなき半永久的な成長を遂げるには、IT革新がもっと進む必要があったのです。
世界は急ぎすぎたのです。
その他の世界への影響
日本での影響
日本では平成バブル後の金融危機からようやく立ち直りかけた時期で、人々に悪夢の記憶が残っていただけに全体的な過熱感はありませんでした。
ただ、一部のIT関連の銘柄の株価は高騰しました。
ソフトバンク、ヤフージャパン、楽天など今日では巨大企業としての地位を確立している企業も株価が大きく上昇し、バブル崩壊により半値以下になりました。
当時最も高値を付けたのは1988年に創業したITベンチャー企業の光通信です。
ITブームが頂点だったころ、光通信の代表取締役の重田康光氏は世界第5位の大富豪として「フォーブス」の表紙にも乗りました。
しかし2000年3月、携帯電話の架空契約による売り上げ水増しが発覚し、光通信の信用は失墜。
その影響株価はピークの1株24万円 → 8,000円まで急落しました。
日本のIT業界全体に波及し、ほかのITベンチャーの株価まで急落させる事態に。
アメリカと共通のITバブル崩壊の原因の一つに「光通信のように内容のないITベンチャー企業を高評価しすぎたこと」が挙げられます。
アイルランド
欧州諸国のなかでも英語圏で賃金コストが低かった小国アイルランドにIT関連企業の直接投資が相継ぎ、アイルランドはこのブームに乗って「ケルトの奇跡」と呼ばれる経済成長を達成。
バブル崩壊後もアイルランド経済への打撃は決定的ではありませんでした。
インド
英語人口が多いインドにもソフトウェア関連の投資が増加し、インド経済に好影響を与えました。
中国
中華人民共和国でも、当時株式公開を行った聯想集団などのIT関連企業の株価はいきなり高値を付けまし。
その後、これら企業の株価は下落を続けましたが、中国のITブームはようやく緒に付いたばかりであったので、大きな打撃を受けることはありませんでした。
1999年3月には、今日の中国IT業界の帝王:アリババがサービスを開始しています。
ITバブルは戻ってくるのか?
ITバブルで沸いた2000年ごろは、まだサービスが始まったばかりで、投資は急過ぎたと言えます。
その後、IOT、ビッグデータ、AI、モバイル、クラウド、SNSと ITを基盤とした様々な革新的な技術や考え方が出てきています。
ようやく当時期待された世の中になってきたと言えます。
そして、5G、ブロックチェーン、AIなど次世代の技術はどんどん実現してきています。
次のITバブルはもうすぐそこまで迫っているのかもしれません。
話をITバブルの弾けた2001年~2002年に戻します。
結果として次に弾けたのはITのバブルではありませんでした。
舞台はまたアメリカ、それは「住宅のバブル」で世界にとんでもないショックを巻き起こします。